村中 貴士(編集&ライター)のブログ

フリーライターおよび編集者/村中貴士のブログです。

掃除機の血圧を測る

 

f:id:mrnk0504:20200601023428p:plain

はじめに

血圧計を買った。

f:id:mrnk0504:20200602150646p:plain

購入した経緯はちょっとややこしいので説明を割愛するが、最終的には父親にプレゼントしようと思っていた。というのも、父は心臓の病気を患っていたからだ。

 

しかし、父は一昨年の9月に突然亡くなった。71歳だった。

 

血圧計はどうしようか。父の代わりに、母親へプレゼントしようか。ただ幸い、母親のほうは元気である。自分で使おうかと思ったが、今のところ健康状態としてはおおむね問題なく過ごしている。

 

さて、残った血圧計をどうしたものか。自分で使用する以外に、何か使いみちはないだろうか。

 

そこでふと考えた。

 

血圧計で、人間以外のものを測ってみるのはどうだろうか?

 

もしかすると、血圧計で測ってみると面白いデータが出るものがあるかもしれない。さっそく街へ出て、さまざまなものの血圧を測ってみることにした。

 

植物の血圧を測る

”人間以外の血圧”で真っ先に思いついたのが、植物である。たしか学校で「植物にも血管のような管があり、根から養分を吸い上げている」と習った記憶があるからだ。植物における血管には、何か名前がついていたような気がする。なんという名称だったっけ。

 

f:id:mrnk0504:20200529171127p:plain

 

参照元:根・茎のつくり

http://www.max.hi-ho.ne.jp/lylle/shokubutu4.html

そうだそうだ。道管、師管、維管束だ。維管束なんて言葉を聞いたのは何十年ぶりだろうか。

 

ということで、近くの公園へ植物の血圧を測りに行くことにした。

f:id:mrnk0504:20200529174325p:plain

手ごろな木を見つけ、血圧を測ってみる。ちなみに今回使用する血圧計は、腕に黒い布(カフ)を巻き、ゴム球でシュポシュポと空気を送って測るオーソドックスなタイプである。

f:id:mrnk0504:20200531155734p:plain

木のお医者さん(ニセモノ)

 

f:id:mrnk0504:20200531160143p:plain

人間と同じような操作で血圧を測ってみたが、数値は出なかった。画面に見えている数字は計測途中の圧力。正しい方法で人間を測ると、最高血圧最低血圧の2つが画面に表示される。今回はそれを目指す。

f:id:mrnk0504:20200601130939p:plain

正常に計測できた場合の画面表示。人間以外でこれを出したい


やはり木は堅い。もう少し柔らかい植物ではどうだろうか。

f:id:mrnk0504:20200531160709p:plain

ちょうど、手ごろなサイズの植物があった。太さも人間と同じくらいで測りやすい。根に近い部分に血圧計を巻いて測定する。

f:id:mrnk0504:20200531161136p:plain

先ほどと同様に測定するも、数値は出なかった。

 

トンボ、いもむし、パンダ

植物の血圧測定は失敗であった。もう少し、生命を感じられるものでないと難しいのではないだろうか。

f:id:mrnk0504:20200531161817p:plain

そこで見つけたのが、トンボである。

f:id:mrnk0504:20200531162026p:plain

トンボの羽の部分で血圧を測ってみる。

f:id:mrnk0504:20200531162220p:plain

しかし、やはり数値は出ない。

f:id:mrnk0504:20200531162527p:plain

次に測定したのは、いもむしである。胴体は太く、血圧計を装着できなかったため、ツノの部分を測定する。

f:id:mrnk0504:20200531162811p:plain

これも測定不能であった。

 

トンボもいもむしも、人間の腕と比べると硬すぎた。もう少し柔らかいもので試してみよう。

f:id:mrnk0504:20200531163424p:plain

そこで登場したのが、パンダである。これはかなり柔らかい。

f:id:mrnk0504:20200531164403p:plain

最初は足の部分に血圧計を装着したのだが、数値は出なかったため、胴体に巻き付けて測定することにした。しかし、やや太めのパンダ。装着に苦労した。

f:id:mrnk0504:20200531170348g:plain

窮屈そうなパンダ。パンダ愛好家に方には大変申し訳ない画像であるが、決して苦しめたい訳ではない。これも血圧測定のためなのだ。

f:id:mrnk0504:20200531171320p:plain

シュポシュポと空気を送るたび、胴体が縮んでいくパンダ

 

しかし、残念ながら数値は出なかった。

 

両さん、ジョー、ドナルド

植物、昆虫、パンダでは血圧が出なかった。やはり人間でないとダメなのか。そこで目を付けたのが、両さんである。

f:id:mrnk0504:20200531172122p:plain

こちら葛飾区亀有公園前派出所」の主人公、両さん。JR亀有駅周辺の各場所には、両さんが10人以上も滞在している。

f:id:mrnk0504:20200531172443p:plain

f:id:mrnk0504:20200531173214p:plain

その中から、誰でも触れ合うことのできる「ひとやすみ両さん」(亀有公園)の血圧を測ってみることにした。

f:id:mrnk0504:20200531173523p:plain

しかし、ここで問題が発生。なんと両さん、上腕が太すぎて血圧計のカフが回り切らず、装着できないのだ。しかたなく、ひじから先の前腕部分で血圧を測ることにした。

f:id:mrnk0504:20200620204026p:plain

楽にしてくださいね~

 

「がっはっは。わしはずっと楽にしとるぞ」と、終始くつろぐ両さん。いつも血気盛んな両さんのこと、血圧も200ではきかないくらい高めではないだろうか。そう思いながら測定したが、数値は出なかった。

f:id:mrnk0504:20200531175435p:plain

両津補完計画は失敗に終わった。

 

次に目をつけたのが、「あしたのジョー」こと矢吹丈である。

f:id:mrnk0504:20200531180101p:plain

西武池袋線大泉学園駅前に「大泉アニメゲート」がある。駅北口の歩行者道路に立っているのが、矢吹丈だ。ほかにも鉄腕アトムや「うる星やつら」のラムちゃんなど4作品が並んでいるが、今回はジョーを選んだ。

f:id:mrnk0504:20200531181418p:plain

あれだけのハードパンチを繰り出しているにもかかわらず、腕はやや細めであった。これなら血圧計は問題なく装着できる。

f:id:mrnk0504:20200531181012p:plain

楽にしてくださいね~

 

「これが俺にとっての楽な姿勢なんだ!」と、ファイティングポーズを崩さないジョー。

f:id:mrnk0504:20200531181809p:plain

しかし、数値は出なかった。矢吹補完計画も失敗に終わった。

 

次はどうしようか。そこでふと思い浮かんだのが、ドナルドである。といっても大統領ではない。マクドナルドの店舗の横でくつろいでいる、あいつだ

f:id:mrnk0504:20200531182112p:plain

ベンチに座っているドナルドは、通称「ドナルドベンチ」と呼ばれ、一部に愛好家もいるほどの人気者である。では早速、ドナルドの血圧を測ってみよう。

f:id:mrnk0504:20200531182620p:plain

突然あらわれたブラックジャック(無免許医師)にも一切動じず、不敵な笑みを浮かべるドナルド

 

しかし、ここで問題が起きた。店員に「撮影はご遠慮ください」と注意されたのだ。店員いわく、マクドナルド本部の許可がないと、個人ブログであっても撮影はできないという。「ドナルドをいじる(今回は血圧測定)のはダメだが、ドナルド単体の撮影ならOK」とのことであった。おそらく僕以外にも、ドナルド補完計画をもくろむ輩(YouTuberなど)がいるのだろう。大変申し訳ございません。

 

ドナルドの血圧測定は、あえなくドクターストップとなった。

 

血圧測定の原理を調べる

さて、茶番はここまでだ。次からは本気で血圧を採りにいく。これまでは行き当たりばったりで測っていたが、血圧計の原理を知らなければ測定できないことに今さら気づいたのだ。

 

ということで、血圧測定の仕組みを調べてみよう。説明書を見ると、「測定方式:オシロメトリック方式」と書いてある。

f:id:mrnk0504:20200531185442p:plain

オシロメトリック方式

さっそくネットで検索してみた。血圧測定には「オシロメトリック方式」と「コロトコフ方式」の2種類があり、現在使われている血圧計は「オシロメトリック方式」が主流となっている。

簡単に、オシロメトリック方式による最高血圧最低血圧の測定の流れを説明しておこう。

f:id:mrnk0504:20200601022845p:plain

<血圧測定の流れ>

1. 上腕にカフ(腕帯)を巻く

2. ゴム球から表示部をつたって、カフへと空気を送り込む

3. 腕の血管を圧迫し、いったん血液の流れを止める

4. カフ圧がピークに達したあと、徐々に圧迫を緩めていく

5. その反動で血液が急に流れだし、血液の圧力が大きくなる(これが最高血圧

6. 腕の血液が心臓の鼓動に合わせて正常に流れ始め、カフが脈拍を感知する

7. さらにカフの圧力を緩めていく

8. 血液の流れが急激に小さくなる(これが最低血圧

9. カフで感知する脈が消える

10. 表示部(画面)に最高血圧最低血圧の数値が出る

f:id:mrnk0504:20200531190038p:plain

参照:一般社団法人 日本計量機器工業連合会「血圧測定のしくみは?」

http://www.keikoren.or.jp/reading/ken7.html

なるほど。カフが感知する「脈の振幅」がポイントとなるようだ。また、脈拍を感知できないと最高血圧最低血圧も数値が出ない、ということが分かった。

 

掃除機はどうだ

人間の腕のような、ある程度の柔らかさがあり、脈のような振動が感じられるもの。そんなものがないだろうか。そこで思いついたのが、掃除機である。

f:id:mrnk0504:20200531193118p:plain

我が家の掃除機

掃除機のホース部分はやや弾力性があり、太さも人間の腕に近い。そして、空気を吸い込む際に振動が起きる。掃除機のスイッチで強弱を切り替えれば、ホースの空気圧が変わり、人間の脈のように見せかけることができるはず。そう考えたのだ。

f:id:mrnk0504:20200531194039p:plain

掃除機のスイッチ

 

ということで、さっそく掃除機に血圧計を装着する。

f:id:mrnk0504:20200531194712p:plain

楽にしてくださいね~

 

f:id:mrnk0504:20200531195831p:plain

ゴム球からシュポシュポと空気を送りながら、掃除機の強弱を変える。操作は難航を極めた。何度も繰り返し測定してみたが、残念ながら数値は出なかった。

 

ほかに何か、振動を感じられ、かつ脈の代わりとなるものはないだろうか。そこで思いついたのが、排水管である。

f:id:mrnk0504:20200531200844p:plain

我が家の洗面台

 

洗面台の下に排水管がある。掃除機と同様、人間の腕の太さに近い。

f:id:mrnk0504:20200531201209p:plain

見てみると、排水管のホース状になっている部分に血圧計を装着できそうだ。そこへ水を断続的に流す。先ほどの掃除機では、中に流れているのは空気であったが、今度は水である。したがって、より血液に近い状態になるはずだ。

f:id:mrnk0504:20200531202057p:plain

f:id:mrnk0504:20200531202353p:plain

血圧計を操作しつつ、上から水を断続的に流してみる。掃除機と同様、測定は困難を極めた。しかし、これも残念ながら数値は出なかった。水の流れを血液の流れと認識してくれるのでは? と期待したのだが。またしても失敗である。

 

やはり、人間以外の血圧を測ることはできないのか……。あきらめかけたその時、突然、謎の生物があらわれた。

f:id:mrnk0504:20200531204055p:plain

謎の生物

 

「きみはいったい何者だ?」

「見ての通り、シマウマです」

「シマウマがなぜ、こんなところに?」

f:id:mrnk0504:20200531204628p:plain

「理由はいいから、はやく血圧を測ってください」

「わかりました」

f:id:mrnk0504:20200531205054p:plain

諸事情により医師がいなくなってしまったため、自ら血圧計を装着するシマウマ

 

f:id:mrnk0504:20200531205506p:plain

(※注意:この姿勢では、血圧を正確に測ることはできません。血圧計の説明書をよく読み、正しい姿勢で計測してください)

 

f:id:mrnk0504:20200531205852p:plain

シマウマの血圧は、最高血圧118、最低血圧67であった。(人間における正常値の範囲内)

 

メーカーに聞く

念のため、血圧計のメーカーに電話して聞いてみた。

 

僕「御社の血圧計を購入した者ですが」

メーカーの人「ありがとうございます。何かございましたか?」

僕「人間以外の血圧を測りたいのですが、どうすればよいのでしょうか」

メーカーの人「人間以外というと……動物とかですか?」

僕「人間以外であれば、何でも構いません」

メーカーの人「えーと……(やや困惑した口調のあと)、動物病院で使われるような、ペット用の血圧計はあるようですが、弊社では取り扱いはありません。ご購入された血圧計は人間用のものですので、それ以外でのご使用はおやめください」

 

結論

人間用の血圧計で、人間以外の血圧を測ることはできない。というか数値は出ない。ペット(シマウマ含む)への使用も不可。

 

f:id:mrnk0504:20200531212150p:plain

夢のあと